北の、外れの、ド田舎の、

僕は、とある空家の空き室で寝泊まりすることになった。

 

友人も同じ空家の別の部屋で寝泊まりしている。

40年も50年も昔に建てられたであろう、空家の玄関のガラス戸は、木が雪や湿気や温度変化なんかで完全に変形しており、手で横にスライドするとガタガタとうるさく音を立てて、その長い長い時間経過を物語っていた。

 

2重になった硝子戸を入ると古臭いドアがあり、その先が玄関だった。

玄関から床は若干高くなっており、これまた古くなった下駄箱があった。

 

この時点で、「こんな朽ち果てた所に来てしまったのか…」と着いて早々だったが、内心、帰りたい欲が出てきていた。

 

玄関から横の部屋のドアを入るとリビングになっており、リビングからは玄関ドアを除いて、風呂場と勝手口へのドアがひとつ、和室の空き部屋が3つあり、ドアが2つと襖が1つになっていた。

 

幸いリビングの床はフローリングが新しくなっており、130cmくらいのでかい排気管の付いた灯油ストーブと、事務用の長机の上には、友人がPCとして使っている40インチのテレビモニターがドーンと置かれており、キャスター付きの椅子とキーボード用のミニ机があった。

 

2口コンロのキッチンの方には冷蔵庫、電子レンジ、事務用の長机が置かれている。

壁は白色に新しく張り替えたようだ。

 

ドアを開け、和室の部屋に入ると

(モワッ)とカビくさい臭いと湿気を感じた。

 

友人の寝ている部屋以外は畳を張り替えておらず、他の2部屋はひどい壁も傷つき、天井も水漏れのような跡、押し入れのふすまも家が歪んで開閉しにくい状況だった。

 

僕は、比較的マシな方の部屋を使うことにした。

部屋にはそれぞれ毛布とふとんが敷かれていたが、とにかく畳の湿気とカビの臭いが酷く、その晩寝るときに嗚咽がするほどだった。

 

 

友人はこの北の外れのド田舎で働いている。

小さな会社だ。

何をしている会社だとかは言えないが、

僕がこんなド田舎に来たのは、この会社の社長が寝泊まりの場所やらを無料で確保してくれる話だと聞いて来たのだ。

 

とりあえず、世話になるので、6缶ビールを片手に夕方5時過ぎに友人と社長宅に向かった。

 

予定では簡単に顔だけ出して挨拶してから、すぐにスーパーに買い出しするつもりだったが、社長に招かれ家にお邪魔することになった。

 

中に入ると社長は知り合いのタイ人とスカイプ中で、英語で僕が来たことを話して通話を切った。

 

 

「おうおうよく来たよく来た」ってなノリでなんだかんだ話をしていると、「まあまあビールでも」と僕の買ってきたビールを注ぐので、普段飲まない酒を飲むことになった。

 

友人は社長の指示で、ジンギスカン用の肉を買ってくるようおつかいを頼まれ、そんな流れで結局、人生初のジンギスカンを最近買ったという煙の出ない専用コンロで焼いて、なんだか知らないがジンギスカン屋で買ってきたらしい特製の味噌だれ(ビニール袋に入ってた)をつけて食べた。

 

ラム肉は思ってたより臭くなかったが、肉はオージー産だと聞いてなんだかがなーと思った。

 

僕は初体験のものを大事にする性格だから、初めてのものは「ええやつ」を食べたかったのだ。

 

当たり前だが、初体験ってのは1度しか味わえないからね。

 

そんなこんなで夜10時頃まで飲んでたら帰るころには辺りは真っ暗で、車のフロントガラスが寒さで凍っていた。

もちろん友人は運転があるので飲んでいないが、フロントガラスが凍ったのを見たのは初めてだと言っていた。

 

帰宅後、やけに頭がボーっとしてきたので熱を測ると38.2℃で、喉もいがらっぽくなって、風邪をひいてしまっていた。

 

友人と深夜まで話したあと、疲れていたのと酒の酔いで、カビ臭いふとんでも吐き気を我慢してなんとか寝ることができた。

 

いったいこの田舎でどんな生活がはじまるのか、僕はこんなところで何をしてるんだろう…などと想いながらの夜だった。